朝、出勤する時に辺りを覆っていた霧は、退勤する時にはさらに濃くなっていた。
霧とは、映画の効果付けに利用されることも多いが、何故このように幻想的なのであろうか。
右側にあったはずの湖は漆黒虚無の空間に代替された |
昨日は、七年間勤務した同僚の送別会の日であった、正確に言えば、その予定であった。
朝、出勤して、メールを開くと、上部からの「送別会はキャンセル」との文字が視界に飛び込んできた。
キャンセルになった理由は、再度右肩上がりを見せ始めたパンデミックに対する警戒であるという。
この時勢であるので、オフィスで仕事をしている人間は数えるほどである。
私は、少しでも送別会に参加する人が増えるように、知合いに片っ端から声を掛けていた。従って、昨日、朝一番に行ったことは、声を掛けた人たちに、送別会がキャンセルされたことを連絡することであった。
「送別会を成功させることは、あんたの役割じゃないよ」
義理人情よりも権利義務を重視する同僚が、私に釘を刺すようにいった。
確かに、辞めていく同僚と私は部門も異なる。
しかしどうしてもしっくりしない。義理人情とは論理で説明できないものなので厄介である。
「そんなことはわかってる。でもね、七年間よ。七年間も会社のために頑張ってくれたのに、このまま、誰に見送られることもなくひっそりと行かせていいの?」
せめて、ケーキでも焼いて行こうかと思っていたのだが、口に入れるものに関して神経質になっている人も多い最中(さなか)、その選択肢にも疑問が湧いた。
通常は、帰国した時に買って帰る小皿などを上げたりするのであるが、今年は日本に帰らなかったので在庫も無かった。
結局、私一人で空騒ぎしていても、誰のためにもならないことを再認識した。
「今までありがとう。落ち着いたら送別会を企画するから!次のところでも頑張ってね」
と、結局、月並みな言葉を、辞めて行く同僚に残してオフィスをあとにした。
帰り道の一角で思わず立ち止まった。
金色の空 |
遠くの空の霧に街灯が反射していていたためか、空が不思議な金色に輝いていた。
ちょうど、昨年のいま頃、この一帯は大火事に見舞われた。その時の空の色をほうふつさせられた。昨日の午後の空は、その時の空ほど攻撃的なものではなかったが。
「湖畔に霧の撮影に行ってみる」と、友人に携帯メッセージを送ったら、
「湖に落ちないでね」と、彼女は言う。
確かに、霧が濃い時には一寸先は何も見えないため、足を踏み外すという危険もある。
どこて岸壁が終わっているのか霧で不明瞭になっている |
湖畔には、夏季ほどではないが、人はチラホラと見られた。しかし、彼らの顔は認識しがたかった。
注意しながら水際に近付くと、脆弱な波が、岸壁に打ち寄せている様子はかろうじて見られた。
その様子も幻想的であった。暗すぎて水面の映像を撮ることは出来なかったが、そのへんにしばらく佇んで居たら、近くから若い女の子たちの声が響いてきた。
視線を向けた場所では、三人の白装束が、霧の中で舞って居た。
霧の中でスポットライトを浴びながら踊る一人の白装束娘 |
魔女に扮装した子供たちが、近所の人の扉を叩き、扉を開けた人たちに「Trick or Treat (Bus eller godis)」と言いながらお菓子を集めている姿も見られる(危険もあるので賛否両論もあるが)。
しかし、今年はパンデミックの影響で、大半の関連行事は中止になっているはずである。
湖畔の三白装束の舞は、恒例行事を保持しようとするせめてもの抵抗であろうか。
もう一人は見えない所にいる |
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