クリスマスの朝のように平和で暗い朝、どこかで目覚まし時計が鳴っていた。それが目覚ましではなく電話の呼び鈴であるということを認識したあと、慌てて応答した。
早朝の電話は往々にしてよい知らせではない。
「僕の命を救ってくれてありがとう!」
開口一番、電話の主はこう叫んだ。
以前の会社で一緒に働いていた知人であった。
彼の口から出てくる発言は常にドラマ的である。
しかし、命を救うとは穏やかではない。
「SVT(NHKのスウェーデン版)のニュースを見てくれないか」
週末の朝っぱら何事だ、と面倒に感じたが、尋常な雰囲気ではなかったので仕方なくネットでニュースを確認した。
ニュースでは、彼が最近まで住んでいたマンションが動画で映っており、そのマンションは大勢の警察に囲まれていた。
「何者かが手榴弾を投げこんだらしい」
手榴弾?
手榴弾はどこかで見たことがある。さわった記憶もある、果たしてどこかの博物館であったか?
見かけよりは重くなかったような気がする、とそんなことを考えている場合ではない。
「どなたかが亡くなったの?」
さいわい、死者も怪我人も出なかったそうである。
彼は何故、私が彼の命を救ったなどと宣わっているのか。
私は以前、その知人に、
「もっと通勤に便利な場所に引っ越したら、こんなにいつも遅刻をしなくていいんじゃない?」
と、釘を刺したことがあったらしい。
それから間もなく、彼はそのマンションよりも職場に近いマンションに引っ越した。
そのお陰で今回の難を逃れることが出来たと言う。
彼は誰かに恨まれていたのか?
品行方正を絵に描いたような人であるため、そうは思い難い。
しかも、彼が引っ越しをしてからは、かなりの月日が経っている。怨恨がぶつけられるとしたら、彼というよりは、現在住んでいる人である可能性の方が高いであろう。
彼のマンションを購入した人はどのような人だったか。
そうだ、確か、民生委員の男性であると聞いていた。
数か月前に、民生委員の人が何らかの嫌がらせをされて困っている、というニュースを読んだことがある。
「君は今、おそらく犯罪の動機をいろいろと想像してくれているのだろうけれど、どうせならニュースを最後まで読んでくれるかい?」
ニュースの続きでは、手榴弾はそこに住んでいた警官を狙ったものであると説明されていた。
閑静な住宅地で、週末の早朝にその界隈を、爆発時の轟音にて驚かせ、恐怖に陥れた事件であった。
「スウェーデンの治安はどうですか?」
と、日本の方がたに訊ねられることがある。
この質問には一言で答えられるものではない。
その気になれば国家統計局の犯罪データをまとめ上げることも出来る。
しかし、そのようなデータを突き付けられても、旅行者にはあまり意味がないであろう。
北欧諸国は比較的安全だというのが一般的認識であり、その認識に対しては特に異見もない。
深夜早朝に出掛けず、常識的な服装で、常識的な行動を取っていれば、トラブルに巻き込まれる可能性は高くないであろう。しかし、皆無であるという保障はどこにもない。
日本からの海外ロケ隊を招待した時のことである。
北欧に入る直前にアフリカで、気を張り詰めながら取材を行っていたロケ隊は、安全だと思い込んでいた北欧で置き引きに遭遇した。
被害金額、および他に奪われた資料等が半端では無かったため、取材予定にも影響が出た。
結局、どこに居ても自分の身辺は自分で護るしかないであろう。
真っ向から手榴弾が投げられたら、助かる見込みは低いであろうが。
さいわいそのようなことは、ここでは日常的に起こるわけではない…と信じたい。
ご訪問ありがとうございました。
最近は暗い記事が続いてしまい申し訳ございませんが、取り上げさせていただく意義があると思いました。
明るい話題としては、インテリア特集、およびマンション購入ドラマ等の記事のリクエストを頂いたので、後日そちらも紹介させて頂きたいと思います。
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