もう一度やり直せない? 我が愛しのムーミン

 ものごごろついた頃から、家の中はハローキティ―に占領されていた。


 ハローキティ―のこたつカバー、ハローキティ―焼き印の付いたトースト、ハローキティ―のトイレットペーパー、ハローキティ―の花瓶、食器、数え上げれば100製品は軽く超えてしまう。右を見ても左を見ても、キティーがハローと手を振っている。


 ハローキティ―に対しては何の悪感情もないが、そのような家に住んでいると、ぬいぐるみ、アニメのキャラクター等に対する偶像崇拝をすることが難しくなってくることもある。




 よってフィンランドのムーミンに対しても、「どのようなキャラがあるか大体知っている」、という程度であり、好きでも嫌いでもなかった。

 

 十数年前に、妹が訪欧した時、フィンランドのオーボÅbo(フィンランド語ではTurku)にあるムーミン谷に行きたいと言い出した。

 オーボはストックホルムからはクルーズ船に乗って簡単に行ける。


 私は深慮もせず承諾した。




 妹と私、そして乳児であった娘を一人連れて、オーボに着いたあと、町の中心のバスターミナルからムーミン谷行きのバスに乗るための行列に並んだ。


 どなたかがスウェーデンの乳母車は業務用ワゴンに似ていると描写されていたが、その描写のとおりこちらの乳母車は大きく、頑強である。

 よって、バスに乗る時は真ん中の入り口から乳母車だけ先に乗せる。

 ストックホルムでは、乳母車を引いている人間は乗車券を購入する必要がないので、乳母車と一緒に乗車したあと乳母車を離れる必要はない。

 しかし、ストックホルム以外の市、国では乗車券を購入しなければならないため(少なくとも当時はそうであった)、私は、乳児のことは気掛かりではあったが、乗車券を購入するために、一旦バスの外に出て行例に並んだ。


 すると、私と妹の鼻先でバスのドアが閉められてしまった。

 定員に達したのであろう。

 妹は即座に真ん中の入り口に走ったが、そこも既に閉められていた。


 時刻表から遅れをとっていたのか運転手は、慌ただしくエンジンをかけ始めた。


 「開けてよ!赤ちゃんがまだ中に居るんだから!赤ちゃんを降ろさせて!」


 と、私達は声を枯らし、バスの入り口を叩いた。




 それでも運転者は、単にうるさがり、仏頂面で発車しようとした。

 私と妹はドアを叩き続け、英語で叫び続けた。

 ようやく周りの人が異常事態に気が付いてくれたため、バスに乗っていた人が運転手に事情を説明してくれた。

 

 ようやくドアは開けられ娘と再会することが出来た。


 そのような事情があったので、ムーミンの名を耳にすると、しばらく、あの日の焦燥した感情が戻って来てしまっていた。そのため、ムーミンには決して罪はないのに、ムーミンは、私の中では灰色のフィルターに包まれてしまっていた。





 週末はブラック・ウィークエンドであった。

 パンデミック下の時勢、デパートの状況はどうなっているのであろうか、と様子を確かめてみたくなった。


 クリスマス関連のコーナーには、例年ほどではないにせよ、人だかりがあった。

 

 店内には、典型的な北欧のクリスマスオーナメントも多かったが、長靴下ピッピとムーミンのクリスマスプレゼントが多かった。


 多少、違和感を感じた。


 ピッピはスウェーデン・ゴットランド島が舞台となっているものであるが、ムーミンはフィンランド出身である。

 そのムーミンが店内ではピッピよりも幅を利かせている。


 ムーミン一家、温かい家庭、

 ピッピ、立った一人でも強く生きる女の子、

 対照的な二つのキャラクターが、店頭で肩を並べて置かれている。





 カメラのファインダーでピントを合わしていた時にリトルミイと目が合った。黒柳徹子さんのような髪型をしている小さい女の子だ。

 リトルミイは、ひねくれているようでもいじらしい。

 スナフキン(スムースムムリケン)も、ニヒルで何故か惹かれる。


 そのようにムーミン一家の一人一人(?)と挨拶している間に、以前、テレビで見た心温まるドラマの一話が思い出されて来た。

 ムーミンパパとママは、新天地かどこかを求めて、覚書のメモを家中に残して子供達を置き去りしたけれど、結局子供達に会いたくなって戻って来たというような話であったと思う。


 パンデミック下の時勢、テレビを付けても一般的にあまり嬉しくなるような話は聞かない。イライラしている人に会うことも頻繁にある。

 そのような時勢であるから、ムーミンのような温かい家族愛を謳ったような物語が、ふたたび注目を浴びてきたのかもしれない。

 



 ふたたびムーミン一家に会いに行きたくなった。



ご訪問ありがとうございました。

なお、バスの一件は、フィンランドに限らずどこの国でも起こりえることです、念のため。 このエントリーをはてなブックマークに追加

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